"300億円の恩返し" 第7話
……と権力にあぐらをかき、をともわず、者の尊厳を踏みにじるようなには、確な限界があるのよ」
私は元のスマートフォンを掲げた。 画面には、すでに宇野から送られてきた、解約通告の送達完通。
「百億円の解約は、ただの経営判断です。を見る目のない、組織のガバナンスも能していない腐敗したに、がグループの千の社員の活を預けるわけにはいきません。……交渉の余は、ミリもありません」
「そ……そんな……!」 周会が絶望のあまり呻いた、そのだった。
カツ、カツ、カツ――。 廊から、激しいヒールの音がづいてきた。 そして、控の扉が勢いよくけ放たれた。
「――琢磨さんッ!!」
息を切らし、乱れた髪を振り乱してび込んできたのは、ウェディングドレスではなく、普段着のパンツスーツを着た、婦・園部えりだった。
「え……えり……!?」 にへたり込んでいた正子が、掠れた声をげた。 「あなた、なぜここへ……! 鈴様とのご挨拶へくでしょう!?」
えりは母親の言葉を完全に無した。 涙でマスカラを滲ませ、腫れがった目で、タキシード姿のままち尽くす兄・琢磨の元へと駆け寄った。
「琢磨さん……! ごめんなさい! 本当にごめんなさい……!」 えりは兄の胸元にすがりつこうとした。 しかし、兄は半歩だけ、静かにを引いた。
そのわずかな拒絶に、えりのが空で止まった。
広告
「琢磨さん……私、らなかったの! 両親がこんな酷い悪戯を仕掛けていたなんて……! スマホを母に取りげられて、部に閉じ込められていて……今朝、リオのSNSの画を見て、びしてきたの!」
えりは泣き叫びながら、自らのバッグから枚の折りたたまれたを取りした。 それは、兄が事に署名し、えりに預けてあった緑の用――【婚姻届】だった。 証の欄には、同僚の寺田さんと私の名が、几帳面にき込まれていた。
「琢磨さん、今すぐこれをしましょう! 私、親とも縁を切るわ! 園部のなんて捨てる! あなたと緒に、あのアパートで暮らしたいの!」
えりの必の叫び。 もし、これが普通の恋ドラマであれば、な純の結末だったかもしれない。
しかし――。 兄の琢磨は、しげに目を伏せ、ゆっくりと首を横に振った。
「……えりさん」 兄の声は、っていなかった。叫んでもいなかった。 ただ、すべてを悟りきったの、静かでい響きを持っていた。
「俺はね、さっきこの部でで座っていた……ずっと考えていたんだ。先週の、君の実の座敷で、俺が親族に囲まれてをわされたのことを」
えりの肩が、ピクリと震えた。
「俺がなをって、君の親父さんに『庶民がに入れるとうな』と笑われた……君は、部の隅の壁際に座っていたね」
広告
「そ……それは……」
「君は、俯いて……周りの親族にわせて、さく笑っていた」 兄の瞳から、筋の涙が頬を伝った。 「怖かったんだろ。逆らえなかったんだろ。、あので育てられてきたんだから、仕方のないことだ。……俺はね、見されて笑われることには慣れてるんだ。、啜ってきてきたから、何を言われたって平気だ」
兄はえりの目を、まっすぐに見つめた。 「でもね、えりさん。……俺のを番くで支えてくれるはずのが、俺を笑い者にする側にっている。それだけは……どうしても耐えられないんだ」
「琢磨さん……っ!」
「俺は、、妹に惨めないをさせないために、すべてを捨てて働いてきた。自分を売りして、に媚び諂うようなき方をしないために、誇りを持ってきてきたんだ。……君と緒にいたら、俺は俺自のを裏切ることになる」
兄はを伸ばし、えりのから婚姻届を静かに引き取った。 そして、そのを、両でしっかりと持った。
ビリッ――ビリビリッ。
乾いた破裂音が、静かな控に響き渡った。 真っつに、そしてつ裂きに引き裂かれた婚姻届の破片が、兄のからハラハラとへ零れ落ちていく。
「……今まで、ありがとう。さようなら、えりさん」
兄の最の言葉。 それは、どんな号よりもく、どんな罵倒よりも残酷な、完全なる永の決別だった。
「ああああああっ!!」 えりはそのに泣き崩れ、散らばった屑をかき集めようとに両をついた。