"300億円の恩返し" 第2話
『承いたしました。……本付で解約通告の公印文を、亜央本および所轄営業部へ斉送信します。定期預の途解約ペナルティとして、既経過利息が差し引かれ、概算で約千万円の受取利息が目減りしますが、よろしいですね?』
「構わないわ。その千万円の損失は、このを甘やかし、取引を先送りにしてきた私個の経営判断の遅れの代償として処理して。……与振込座も、全取引先への支払座も、すべて週けの朝番でへ移管してちょうだい」
『かしこまりました。ただちに全役員へ緊急招集をかけ、との受け入れ枠の最終調に入ります』
通話を切るまで、わずか分半。 私がスマートフォンをからした瞬、控のの空気が、まるで真空帯のように音を失っていた。
「……おい、お」 最初にをいたのは、園部周会だった。その眉には、苛ちとがわになっていた。 「何を訳の分からん寸劇を演じているんだ? 百億の解約だと? で美容の個事業主をやっている娘が、ハッタリをかますのもいい加減にしろ」
「そうですわよ」母の正子が、扇子で元を覆いながらクスクスと笑い声を漏らした。「百億なんてお、国予算じゃあるまいし、見栄を張るにも限度というものがありますわね。
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お兄さんのがおかしいとったら、妹さんも同じ病気なんですのね」
私は何も答えず、バッグの底から枚の名刺入れを取りした。 最級の透かしで作られた、に数枚しか使わない特別な名刺。 その表面を周会のに差しした。
そこには、世界屈指の巨ビューティーコングロマリットのエンブレムとともに、英語と本語でこう刻まれていた。
【MIREI BEAUTY GROUP 創業者・グループ統括会 柏未令(MIREI)】
「……ミレイ……ビューティー……グループ……?」 男の克彦常務が、その文字を読んだ瞬、顔面からサーッと血の気を失わせた。
の実務を取り仕切る常務として、その名をらないはずがなかった。 国内に千の従業員を抱え、欧州・ドバイ・アジアに数百の直営サロンとクリニックを展し、スキンケア化粧品のグローバルシェアで急成を遂げるメガベンチャー。 そして――亜央の法預ランキングの最頂点に、過何も連続して君臨し続けている【預先】の企業名だった。
「父さん……! これ……嘘だろ……!?」 克彦のがガタガタと震え始め、名刺を取り落としそうになった。 「ミレイ……って、あのミレイグループか!? 毎、本の残推移表の番に載ってる、あの……!?」
「な、何だと克彦!? 何を狼狽えているんだ!」 周会が名刺をひったくるように奪い取った。
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名刺のにさく印刷された本名――【代表取締役会 柏未令】の文字を見た瞬、周会の喉から「ヒュッ」と引きつった呼吸音が漏れた。
「柏……未令……? おが……あのミレイグループの……会……!?」
私はたい差しで、絶句するのを見ろした。 「ええ。あなたがたが『の丈にわない』と切り捨てた柏琢磨の、たったの妹です」
なぜ、私が自らの素性を隠し、ブランド名である『MIREI』だけで世界を相に戦ってきたのか。 そしてなぜ、亜央のような方の堅に、グループの臓部である百億円もの巨額資を預け続けてきたのか。
その原点は、ののるまで遡る。
当、私は歳、兄の琢磨は歳だった。 国で発した型トラックの正面衝突事故により、する両親が瞬にして命を奪われた。 寄りを失った私たち兄妹のに残されたのは、わずかな命保険と、築の古いアパートだけだった。
葬儀の夜、台所で親戚たちが声で話しっていた声を、私は今でも鮮に覚えている。 『男の琢磨君はもう歳だし働けるけど、の女の子は施設に預けるしかないわね』 『学の琢磨君に、歳の子の面倒なんて見られるわけがないもの』
たい現実のに、私は膝を抱えて声を殺して泣いていた。
その、引き戸をけて台所に踏み込んできたのは、喪を着た兄だった。
『僕が育てます』 親戚の制止を振り切り、兄は言い放った。