"正月、娘に熱汁を浴びせた義兄へ110番" 第14話
「美奈……! 美奈、助けてくれ! 兄貴だろ! 族だろおおおっ!!」
法廷の分い扉が閉ざされ、男の見苦しい絶叫は完全に遮断された。 族という言葉を都のいい盾にして、者を痛めつけてきた男の、これが当然の末だった。
閉廷、裁判所のロビーにると、初の柔らかな差しが廊いっぱいに差し込んでいた。 弁護士が、満そうに頷いた。 「美奈さん、完全勝利です。この判決記録を民事裁判所に提すれば、損害賠償請求も満額で認容されます。相方の実の産仮差押えもすでに完していますから、回収能になる配もありません」
「先、本当にありがとうございました」 私がくをげると、ろから歩み寄ってきた兄・政治が、私の肩をポンと力く叩いた。
「よく最まで耐えたな、美奈。……あいつらは、法によって完全に裁かれた。もう、おたちを脅かすものは何つない」
空を見げると、どこまでもく、どこまでも澄んだ青空が広がっていた。 たい湯の記憶は、今、完全に正義のによって洗い流されたのだ。
あれから、丸という歳が静かに流れた。
翌の元。 私は結と共に、再び兄・政治の自宅の居にいた。 朝から空は見事にれ渡り、庭の松のに止まった鳥の囀りが、静かな部によく響いている。
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「美奈、座ってろ。今は客として来たんだろ」 台所でエプロンをつけた政治が、鍋の蓋をずらしながらぶっきらぼうに言った。 「お兄ちゃん、お雑煮くらい伝うわよ」 「いいから座ってろ。……ほら、結ちゃん、参切るの伝え」
「はーい!」 結が元気よくちがり、子供用の全包丁をに台所へ駆けていく。 袖のセーターの袖から覗く結の腕には、いピンクの皮膚が広がっていた。医師の懸命な治療と々の保湿ケアのおかげで、ケロイドになることもなく、傷跡は言われなければ分からないほど綺麗に回復していた。
「政ちゃん、これ、おのかたち?」 結が飾り切りされた参を指差す。 「そうだ。昨、画を見て練習したんだ」 「ふふっ、政ちゃん器用なのにすごい!」
の笑い声が、台所にるく響く。 この、私は内のさなアパートで結との暮らしを確し、しい職で正社員としてのキャリアをスタートさせていた。 元夫・健太からの養育費は、与差押えの続きによって毎自に私の座へ振り込まれている。健太はその、会社での居所を完全に失い、依願退職して方の実へ戻ったそうだが、私と結の活には何の響もない。
卓には、政治がを込めて作ったお節料理が並んだ。 黒豆、田作り、伊達巻、そして湯気のつお雑煮。
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温かいお餅を頬張りながら、結が麦茶の入ったガラスのコップへを伸ばした。
ふと、結の指先が、コップの縁に触れた瞬、ほんの瞬だけピクリと止まった。 が経っても、無識の体の記憶は、い汁物の恐怖を完全には消しっていないのだ。
私は声をかけず、ただ優しく見守った。 結は呼吸をし、両でしっかりとコップを持ちげて、ゴクリと喉を鳴らした。 「……めた!」 「うん、にめたね」 私が微笑みかけると、結は誇らしそうに笑った。
そのだった。
事の終盤、結が取り皿を持ちげようとした瞬だった。
ツルリ、と指先からさな陶器の皿が滑り落ちた。 座卓の縁に当たり、パリン、と乾いたい音がして、畳ので真っつに割れた。
「あっ……!」
結のが、空でピタリと止まった。 その顔から、サッと血の気が引いていく。 瞳が見るに怯えで潤み、さな肩がビクッとねがった。
が経っても、あの神の記憶が、娘のさな胸を締め付けたのだ。 『グラスを割ったら、いものを浴びせられる』 『失敗したら、鳴りつけられて笑い物にされる』
結は恐怖に震えながら、畳のに両をついてをげようとした。 「ごめんなさい……! ごめんなさい、割っちゃった……!」
その瞬――。 政治が、音もなくスッとちがった。
鳴り声など、がらなかった。
嘲笑の笑い声も、舌打ちも、切なかった。
政治は台所へ歩いていくと、静かなつきで箒とちり取りを持って戻ってきた。