"正月、娘に熱汁を浴びせた義兄へ110番" 第1話
「あつっ……! ママ、痛い! いよぉっ……!」
歳の娘・結(ゆい)の引き裂かれるような鳴が、の祝儀気分に沸く神の広に響き渡った。 だが、その切痛な叫びは、座敷を埋め尽くす数の親族たちの品な笑い声によって、無残にもかき消された。
「ぎゃははは! 見ろよ、見事に引っかかったな!」 「幸夫(ゆきお)兄さん、正々いいコントロールしてるわ!」 「結ちゃんもトロいからいけないのよ。おっちょこちょいなんだから!」
私の目ので起きた景は、あまりにも唐突で、そして悪に満ちていた。 元の昼がり。親族総の宴席の最、正座にが痺れた結がちがろうとして、元にあった麦茶のグラスの縁に袖を引っ掛けた。 キン、と甲い音がして、畳のに落ちたいガラスがつに割れた。
たった、それだけのことだった。 子供が注でコップを割ってしまった――それだけのハプニングだった。
しかし、結のすぐ斜め向かい、座にふんぞり返って本酒をあおっていた義兄の神幸夫(歳)は、舌打ちをしながら元にあった鉢の雑煮――沸騰したての汁がなみなみと注がれたい椀を掴むと、ちすくむ結の細い腕めがけて、容赦なくその汁を浴びせかけたのだ。
じゅううっ、と音がしそうなほどの気が、結のいブラウスを濡らす。
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具材の参や鶏肉が布に張り付き、袖から覗く結の柔らかな皮膚が、みるみるうちに赤黒く腫れがっていった。
「結っ!」
私は膝を擦りむく勢いで畳を滑り込み、結の体を抱き寄せた。 鳴り返すよりも、抗議の声をげるよりも先に、皮膚のを奪わなければならない。母親としての本能が、私の考を支配していた。
「あーあ、せっかくの汁が台無しだ。子供が急に目のでバタバタくから、が滑っちまったじゃねえか」 幸夫は空になった椀を畳に放りし、悪びれる様子もなくヘラヘラと笑いながらビールグラスをにした。 「おい健太(けんた)、おの娘、儀が悪すぎるぞ。親の顔が見てみたいもんだな」
夫の健太(歳)は、座布団の端を両でく握りしめたまま、微だにしなかった。 自分の娘が湯を浴びせられ、泣き叫んでいるというのに、兄の顔を窺い、親族の空気を壊すまいと、ただ笑いを浮かべて俯いているのだ。
「でやします」 私はく、掠れた声で言った。りで全が刻みに震えていた。 「誰も、の器とガラスに触らないでください」
私の静かな声に、座敷の笑い声がフッと途切れた。 座に座っていた義母の幸子(さちこ・歳)が、忌々しそうに眉を寄せた。 「ちょっと美奈(みな)さん、げさねえ! 正からそんな吉な顔をして、親族の空気を壊す気かい? 幸夫だって悪気があってやったんじゃないんだから、適当に雑巾で拭いて席に戻りなさいよ!」
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私は返事をしなかった。 その言を返す数秒すら、結の皮膚から細胞の命を奪うになる。 私は泣きじゃくる娘を抱きげ、台所の流しへと駆けした。
ジャーーーッ。
蛇を全にし、いホーローのシンクにたいを落とす。 流をしめ、圧で傷の組織が傷つかないよう配慮しながら、結のブラウスの袖のから静かにを掛け流した。
「痛い……っ、ママ、痛いよぉ……!」 結は痛みのあまり、私のエプロンをさな拳で引きちぎらんばかりに握りしめていた。 「うん、痛いね。痛いって言っていいよ。しなくていいからね」
私は自分の声をできる限りく、穏やかに保つよう努めた。 泣いている子供に「泣くな」と鳴りつけるあの居の連ので、私はまず、娘の痛みを絶対に否定しない母親でいたかった。 袖をハサミで切ろうか迷ったが、布がで皮膚に癒着している能性がある。以、救急救命の講習で読んだパンフレットの記述を必にい起こした――『無理にを剥がさず、布のからやし続けること』。
片で結のさな体を支えながら、私はポケットからスマートフォンを取りした。 指先が震え、画面に落ちた滴のせいで度タップが滑る。 きく呼吸をしてから、まずは域の救急医療相談窓へ発信した。