"帰ってきた長男に家はなかった" 第6話
「今は何でもに入りにくいから」
「でも、私は……」
千鶴は唇を噛んだ。
「私が来なければ、ご主とこんなことにはならなかったんじゃないですか」
澄はしばらく千鶴を見ていた。
りがなかったわけではない。
夫が別の女性を連れて帰ってきたの衝撃は、まだ消えていなかった。
それでも目のにいる千鶴も、戦争によって族もも失った1の女性だった。
「あなたのせいじゃありません」
澄は静かに言った。
千鶴の頬を涙が伝った。
「戦争が終わったら、全部元に戻るとっていました」
澄はくを見るように目を細めた。
「私もです」
しを置いて続けた。
「でも、戦争が終わったからって、全部が元に戻るわけじゃないんですね」
千鶴は何度もをげた。
別れの、慎太郎は駅まで見送りにかなかった。
代わりに澄が千鶴を送りした。
慎太郎はしれたから、その姿を見ていた。
千鶴を救うと言った自分が、結局最まで何もできなかった。
だが、今度は同だけで誰かのを決めてはいけないともった。
その数週、慎太郎は隣町の織物問で働くことになった。
呉でにつけた識が役にった。
料はくなかった。
それでも、自分の力で族を養える仕事だった。
慎太郎は澄に言った。
「俺と来てくれないか」
澄はすぐには答えなかった。
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「正も緒に」
「当たりだ」
「には戻らないんですね」
慎太郎は頷いた。
「戻らない」
それから数、3はさな借へ移った。
慎太郎はまれて初めて、跡取りではない暮らしを始めた。
しいは、呉から歩いてしばらくの所にあるさな借だった。
のと比べれば狭く、台所もさかった。のには根の部から雫が落ち、澄が桶を置くこともあった。
それでも慎太郎は、毎朝そこから仕事へた。
織物問での仕事は、以のとは違った。
自分が主になるわけではない。
に使われ、決められたに働き、失敗すればをげる。
最初は戸惑うこともかった。
それでも反物を見る目と、客の好みを読む力は残っていた。
「本さん、商売をくやってたんですか」
同僚から聞かれると、慎太郎は瞬迷ってから答えた。
「実が呉で」
「じゃあ継がなかったんですか」
「弟が継いだ」
それ以は説しなかった。
へ帰ると、澄が夕を用していた。
卓に並ぶものは決してくない。
芋。
量の麦飯。
運よくに入った魚。
それでも3だけで囲む卓には、実ではじられなかった静けさがあった。
慎太郎と澄のには、まだ距があった。
澄は千鶴について問い詰めなかった。
慎太郎も、言い訳を繰り返そうとはしなかった。
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代わりに、毎の暮らしを続けた。
朝、慎太郎が仕事へる。
澄が事をする。
正が学へく。
夜には3で同じに戻る。
しずつ、それだけのことが族をつなぎ直していった。
ある夜、正が寝た、澄は針仕事をしながら聞いた。
「向こうにいた、私たちのこと考えてましたか」
慎太郎は鉢の向こうでを止めた。
「毎考えてた」
「んでるかもしれないとった?」
「った」
澄の針が止まる。
「私も、慎太郎さんがんだかもしれないとってました」
慎太郎は何も言えなかった。
「それでも待ってました」
「分かってる」
「分かってないとう」
声は静かだった。
責める調ではない。
だからこそ慎太郎は目をげられなかった。
澄は続けた。
「千鶴さんを助けてもらったことは、謝しています。慎太郎さんがきて帰れたのは、あののおかげでもあるんでしょう」
「そうだ」
「でも私は、あなたが帰ってきたらと同じ夫婦に戻れるとってた」
慎太郎はく息を吐いた。
「俺もだ」
初めて正直に言った。
「帰れば、全部戻るとってた」
澄は針を置いた。
「戻らないんですね」
「うん」
「だったら、これから作るしかないですね」
その言葉を聞いて、慎太郎は顔をげた。
澄はしだけ笑った。
以と全く同じ笑顔ではなかった。
けれど、慎太郎には分だった。
方、実との関係は簡単には戻らなかった。
慎太郎は父の源蔵と何かも会わなかった。
盆にもへかなかった。
隆次とも、ですれ違えばをげる程度だった。