"帰ってきた長男に家はなかった" 第5話
その言葉を聞いて、慎太郎は返す言葉を見つけられなかった。
自分は戦で、ただきて帰ることだけを考えていた。
帰れば元の所がある。
も族も、自分の席を空けて待っている。
そううことで耐えてきた。
だが、残された側には残された側の3があった。
次の、源蔵は族全員を座敷に呼んだ。
慎太郎。
澄。
正。
隆次。
隆次の妻。
幼い息子。
全員が揃うと、源蔵は真んに座った。
「をどうする」
誰もすぐには答えなかった。
源蔵はまず慎太郎を見た。
「おはどうしたい」
慎太郎は迷わず答えた。
「俺が継ぐ」
そのために育てられてきた。
そのために商売を覚えた。
戦でも、帰ればがあるとっていた。
次に源蔵は隆次を見た。
「おは」
隆次は兄を見ずに答えた。
「俺は退かない」
座敷の空気が緊張した。
昔なら答えは簡単だった。
男が継ぐ。
次男はへる。
の秩序とはそういうものだった。
だが戦争は、その順番を壊していた。
男がいない、次男が男の役目をした。
そして次男には、もう妻と子どもがいる。
「を半分にできないんですか」
黙っていた澄がをいた。
源蔵は首を横に振った。
「は1つだ」
「でも……」
「主が2おったら、商売はできん」
誰も反論できなかった。
しばらくして、慎太郎が息を吐いた。
「じゃあ俺がる」
全員が顔をげた。
「兄さん?」
隆次まで驚いていた。
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慎太郎は弟を見た。
「おが守っただ」
「そんな言い方するなよ」
「事実だろ」
慎太郎はの奥を見回した。
征、自分が帳面をつけていた机。
父と並んで客を迎えた畳。
季節ごとに反物を積みげていた棚。
何もかも懐かしかった。
それでも、この3を支えたのは自分ではない。
「俺が帰ってきたからって、どけとは言えん」
隆次は何か言おうとしたが、言葉にならなかった。
源蔵が尋ねた。
「では、おはどうする」
慎太郎は苦笑した。
「分からん」
それは男のからるには、あまりにも頼りない言葉だった。
戦争へく、慎太郎のには迷う余がなかった。
男として呉を継ぐ。
澄と暮らす。
正を育てる。
やがて父からを任され、この町でを取る。
自分で選んだというより、まれたから決まっていただった。
そのだけを信じて戦から戻った。
しかし帰ってみれば、同じをすでに弟がきていた。
自分には初めて、決められたのへる必があった。
問題はだけではなかった。
澄との関係も、以のようには戻っていなかった。
慎太郎は毎晩倉庫で寝ていた。
夕方、正がこっそり顔をすことがあった。
「父ちゃん」
「どうした」
「ここ寒くない?」
「平気だ」
「ので寝ればいいのに」
慎太郎は笑った。
「もうししたらな」
正は納得できない顔をした。
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「父ちゃんと母ちゃん、喧嘩してるの?」
慎太郎は息子の問いにすぐ答えられなかった。
「父ちゃんが、母ちゃんを困らせたんだ」
「千鶴さんのこと?」
慎太郎は驚いた。
子どもだから分からないとっていた。
だが正は、たちの会話をった以に理解していた。
「千鶴さんと結婚するの?」
慎太郎は首を横に振った。
「しない」
「じゃあ、母ちゃんと緒にいる?」
「そうしたい」
正はししたようだった。
しかし慎太郎には、「そうしたい」と「そうできる」のに距があることが分かっていた。
数、慎太郎は寺へ千鶴を訪ねた。
千鶴は境内の掃除を伝っていた。
慎太郎を見ると箒を止めた。
「ご族は」
「まだ、まとまらん」
「私がいるからですね」
「違う」
慎太郎はすぐ否定した。
「のこともある。弟のこともある。俺が帰れば何もかも元通りになるとってた俺が悪かったんだ」
千鶴は呂敷包みを見た。
本へ着いたから持っている荷物は、それだけだった。
「私は阪へきます」
慎太郎は顔をげた。
「阪?」
「寺の方が縫製を紹介してくれました」
「働けるのか」
「ここにいるよりいいです」
慎太郎は何か言おうとした。
だが引き止める資格が自分にあるのか分からなかった。
そのの夕方、澄も寺へ来た。
千鶴は驚いた。
「奥さん」
澄はさな呂敷包みを差しした。
には、着替えに使える類と、量のべ物が入っていた。
「持っていってください」
千鶴の目に涙が浮かんだ。
「受け取れません」