みかん小説
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"4時20分で止まった遺品" 第9話

――コン。

握り横を叩く。

――コン。

しかし、そこから握りほど側へと拳を移させて叩いた瞬、音が劇に変化した。

――ドォン……。

く、質な属の反響音が壁の奥から返ってきた。 浩司は壁に沿ってを滑らせながら、細かく拳を打ち付けていった。空洞音が返ってくる範囲は、ちょうど柄な通り抜けられるほどの幅とさを持っていた。

壁のを塞ぐように置かれていた腐した棚を力任せに引っ張ると、腐った材がでバキバキと音をてて崩れ落ちた。もうく引くと、棚全体がへと崩壊した。

ガッシャーン!

激しい埃ががった。浩司は作業着の袖で元を覆いながら、壁面に張り付いていた枯れ蔦を両で力任せに引き剥がしていった。 蔦がバリバリと音をてて剥がれ落ちると、そののモルタル壁に、周囲とはらかにが異なる、濃いのペンキで塗り固められた方形の境界線が浮かびがった。

浩司は具箱から使い古されたノミを取りすと、その境界線に刃先を当て、槌で叩いた。 の塗装の破片がパラパラとに落ち、そのから鈍いを放つ黒い属の肌が姿を現した。

――鉄板だった。

浩司の息が止まった。 袖で額に滲んだ汗を乱暴に拭い、再びノミを激しくかした。

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かけて周囲のモルタルとペンキを削り落とすと、そこにはをかがめて通れるほどの頑丈な防盗仕様の鉄の扉が完全に姿を現した。

蝶番は内側に巧妙に隠されており、側にはドアノブも取っも見当たらなかった。 浩司は扉の縁に沿って指先を慎に滑らせていった。の隅に、ちょうどの親指の爪ほどのさな窪みがあるのを見つけた。 ノミの先端をその窪みに差し込み、テコの原理でゆっくりと体をかけて力を加えた。

ギィィィ……。

い鉄の扉が、軋んだい音をてて、ゆっくりと内側へと押しかれた。

から流れしてきたのは、倉庫のあの湿ったカビの匂いとはまったく異なる空気だった。 乾いた鉄の匂いと、古い、そしてかすかな油の匂い。 何もの界から完全に遮断され、密閉されていた空涼な空気だった。

浩司はスマートフォンのライトを点灯させ、かれた暗へとを向けた。 そこは、いコンクリートで方を完全に囲まれた、畳ほどのさな隠し部だった。 の倉庫は漏りでがぬかるんでいたが、この部の内部は議なほど完全に乾燥しており、埃ひとつ落ちていなかった。

の正面に、腰のさほどある巨な黒い耐庫が鎮座していた。

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隅には、太いアンカーボルトがく打ち込まれ、基礎のコンクリートに完全に固定されている。庫のな扉の央には円形の真鍮製ダイヤルがあり、そのにはさな真鍮プレートがリベットで留められていた。

『松原精密』

浩司はその文字を、息を呑んで見つめた。 父の古い作業着の胸にある刺繍と、まったく同じ体。 そして、今朝からポケットに入っている、あの形見の腕計の裏蓋に刻まれた文字と、寸分違わぬものだった。

浩司は庫のに膝をつき、真鍮のダイヤルにをかけた。 へ回すと、数字を通過するたびにカチッ、カチッと精密な械音が指先に伝わってきた。へ回しても同じように滑らかにいた。

浩司はまず、父のを試してみた。 かない。 くなった母の命、娘の恵がまれたの創業……いつく限りの数字を順番にわせてみたが、庫のいレバーハンドルはびくともしなかった。

浩司は庫のに座り込み、井を仰いだ。 ダイヤルのにある『松原精密』の銘板と、ポケットのにある腕計。 父はこの隠し部庫を、自らの職としての技術を総員して密かに作りげたのだ。そして、のすべての財産を兄に譲るで、この計だけを遺言にわざわざ記して浩司に残した。

くなる、病計の文字盤を叩き、の空を指差した父の姿が鮮にフラッシュバックした。

「……まさか」

浩司はポケットから腕計を取りし、庫の銘板の隣に並べて置いた。

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