みかん小説
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"4時20分で止まった遺品" 第8話

「……こう」

その夜、はあの郊のボロ倉庫へと向かった。 父を供養できる所は、もはや世界でそこしか残されていなかったからだ。

カビの匂いが漂う暗い倉庫の央に、さな折りたたみテーブルを広げた。苗が丁寧に作った料理を並べ、本の蝋燭にマッチでを灯した。 位牌も、遺もそこにはなかった。

代わりに浩司は、ポケットから父の形見の腕計を取りし、テーブルの真んに静かに置いた。 分で止まった針が、揺れる蝋燭の炎ので、かすかに鈍いを放った。

恵が、自分のスマートフォンをテーブルの脇にてかけた。 画面のには、あの奪われた写真――歳の恵が祖父の膝ので笑っている画像が表示されていた。

「おじいちゃん、写真は私がちゃんと持ってるからね」

恵はスマートフォンの画面を指先で優しくなぞった。

「額縁だけがあそこにあるだけだから。おじいちゃんは、ここにいるよね」

苗は汁椀の位置を直し、割り箸を揃えて置いた。その指先はかすかに震えていたが、器がぶつかる音はてなかった。 浩司は、干し鱈と野菜のえ物を乗せた皿を、テーブルの側に置こうとして、ふとい直して側へと置き直した。

父は、鱈のよりも、細かく刻んだ野菜のえ物を好んで先ににしていた。

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の数、箸を握る力が失われてからは、浩司が毎こうしてえ物をスプーンの先に乗るよう細かく刻んでべさせていたのだった。 浩司は無識のうちに、箸を使って皿の野菜を細かく刻んでいた。もうそれをべるは、この世のどこにもいないというのに。

浩司は、湿ったコンクリートのに両膝をつき、度、げた。 額がたいに触れると、る線りと、カビの匂いが先で混じりった。

「お父さん……」

浩司はに伏したまま、消え入りそうな声で呟いた。

「どうして……どうして私に、こんなものばかりを残されたのですか……」

蝋燭の細い炎が、隙に吹かれてさく揺れた。

く拝礼を終えてがろうとした瞬の痺れのせいで浩司はわずかにバランスを崩した。倒れそうになり、咄嗟に横にあった樫のの巨な作業台にく片をついた。

の体気にかかった瞬、何かされていなかったい作業台が、ズズッと方へ指本分ほどずれた。 作業台の太い製の脚が、背側の壁にぶつかった。

――コン。

壁のすぐ裏側が完全な空洞であるかのような、く、く尾を引く反響音が、倉庫の静寂のに響き渡った。

浩司はきを止め、側の壁をじっと見つめた。 しかし、彼はすぐにその線をし、再び祭壇のに正座し直した。

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今夜は、壁の謎を暴くではなかった。 寄り添い続けた父の魂を、国へと静かに送りすための夜だったからだ。 蝋燭の本のが完全に燃え尽き、が倉庫を包み込むまで、浩司は度と顔をげることはなかった。

翌朝、夜がけると同に、浩司はで再び倉庫を訪れた。 の法を終えた以苗と約束した通り、この倉庫を売却するか解体するための片付けを始めるつもりだった。

しかし、錆びた引き戸をけた瞬、昨夜、作業台の脚が壁にぶつかったに響いたあの異様な空洞音が、どうしてもかられなかった。

浩司は棚の隅に置かれていた父の古い作業着を取りし、積もった埃をのひらで払った。し躊躇した、浩司は着ていたシャツのからその作業着を羽織った。 胸元の『松原精密』という刺繍が、かすかに擦れて残っていた。

浩司はまず、昨夜の供養の跡を片付けた。 燃え尽きた蝋燭の芯と空になった器をダンボール箱に収めると、を決して側の壁へと歩み寄った。 巨な樫のの作業台の両端にをかけ、全の力を込めてに引いた。

ズズズッ……!

の脚が、湿ったコンクリートのを擦りながら数センチ退した。作業台のろから、枯れ果てた蔦に覆われたのモルタル壁がわになった。

浩司は、昨夜作業台がぶつかったあたりを、の拳の側面で軽く叩いた。

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