みかん小説
本棚

"4時20分で止まった遺品" 第5話

ひとしきり乾杯の騒ぎが続いた、再び裕の声が聞こえてきた。

「しかしよ、あの倉庫、どうすんだ? 解体して更にするだけでも百万円以かかるらしいぜ。親父も最が完全にボケて、あんなゴミ捨てを遺産だなんて言って押し付けたんだろうがな」

再び、の嘲笑がなりって夜の空気に響き渡った。

浩司は、インターホンに向けたを静かにろした。 握りしめていたには、の法の候補を几帳面にき留めたさなメモ用があった。浩司はその度、半分に折った。そしてもう度、さく折った。のひらに収まるサイズになった片を、作業着のポケットへと滑り込ませる。

そのポケットので、指先に父の古い腕計のたい属が触れた。 浩司はそのまま、誰にも声をかけることなく踵を返した。 背にある敷からは、いつまでも品な笑い声が漏れ聞こえていたが、浩司は度も振り返ることなく、暗い夜を歩きった。

、浩司と苗、そして恵のは、相続された郊の倉庫を初めて訪れた。

町の部からきくれ、線バスの留所からも分以歩かなければたどり着けない、寂れた域のれだった。 目のつ建物は、赤錆びたスレートのトタン根の片隅が崩れ落ち、壁には枯れた蔦がまるで蜘蛛の巣のように面に張り付いていた。

広告

の周りには雑い茂り、捨てられた廃材が散乱している。

錆びついた京錠にを触れると、指先に赤い錆のがじっとりと付着した。 浩司が力を込めて引き戸を押すと、キーッという属音とともに、閉じ込められていた湿ったカビの匂いが、むわっとを突いた。

恵がわずを押さえた。 倉庫のは、昼だというのに暗かった。 壁に沿って腐りかけた製の棚が並び、そのには油と埃にまみれた錆びだらけの古い具が無造作に転がっている。コンクリートのを踏みすたびに、ひび割れた隙からじわりとたいが染みしてきた。

苗が、漏りの跡が黒く染み付いた井を見げた。 腐して穴のいたスレートの隙から、ぽつり、と滴が粒落ち、元にできたさな濁ったたまりを揺らした。

ツン、と乾いた音が響く。

浩司は、倉庫の最も奥にある側の壁へとづいた。 のひらを壁に当てると、湿気を含んだたいモルタルの触が伝わってきた。枯れ果てた蔦が壁の半分をく覆い、そのには、放置されて油が染み込んだ巨な樫のの作業台が、壁にぴったりとくっつけられて置かれていた。

浩司は作業着のズボンでのひらの汚れを拭った。 作業台のの棚を覗き込むと、埃をかぶった着の作業着が丁寧に畳まれて置かれていた。

広告

胸のポケットのあたりに、かすれた刺繍で文字が残っていた。

『松原精密』

父が、旋盤で属部品を削りし、錠や精密械を自らので修理していた頃に、毎着ていた作業だった。 浩司がその作業に取り、積もった埃をで払ったその瞬――倉庫のから、砂利を踏みしめるのスキール音が響いた。

の真しい級セダンが、ぬかるんだ面にい轍を残して急した。 助席のドアがき、サングラスをに乗せた美咲が、価なパンプスをで汚さないようにつま先ちでりてきた。は、くにある相続した農の様子を見に来たついでに、やかし半分でち寄ったのだった。

「どんなゴミ溜めかとって見に来てあげたわよ」

美咲はスマートフォンを構え、倉庫の歩だけを踏み入れると、暗い空を物珍しそうに見回した。そして、側の壁――あの巨な作業台と枯れ蔦に覆われた壁を画面のに据えて、パシャリと写真を撮った。

そして、作業を抱えて恵を振り返り、蔑むような笑みを浮かべた。

「よく見ておきなさい、恵ちゃん。あんたのお父さんみたいに、領悪くきてるとね、こういう惨めなガラクタしかに入らないのよ」

恵の肩がビクッとねた。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: