みかん小説
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"不在着信93件の朝" 第12話

みつ子は背筋をまっすぐに伸ばし、に崩れ折れるを見ろして、最通告を言い渡した。

志、里さん。私たちの決は絶対です。弁護士を通じてすべての法続きは完しており、覆ることは度とありません。これ以、私たちへの接触、話、訪問はすべて弁護士への業務妨害として警察に通報します」

「お母さん……っ! そんな……見捨てないで……!」

「見捨てたのではありません。あなたたちが『やめてみろ』と望んだ自を、あなたたち自に歩ませてあげるのです。自分のち、自分の力できていきなさい。さようなら」

みつ子と正はそれ以言の言葉も交わすことなく、に泣き崩れる息子夫婦に背を向けた。

「母さん! 母さぁぁぁん!!」 「お母様! お願い、戻ってきてぇぇ!!」

からロビーに響き渡る里の狂乱の号泣と、志の絶望な叫び声。

みつ子はその声を背で聞きながら、度として、ただの瞬たりとも振り返ることはなかった。歩みをめるごとに、取りは羽のように軽くなり、界の先にはの柔らかなが満ちていた。

あの箱根での決着から、が流れた。

のウォーターフロントに建つ層ホテルの最階レストラン。初よい夕暮れ、みつ子と正京湾を望できる窓際のテーブル席で、穏やかにグラスを傾けていた。

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テーブルには、旬のの幸を使った菜と、美しくローストされた特選黒毛牛のフィレステーキが並んでいる。

「正さん、このお肉、本当に柔らかくて美しいわね」

みつ子が微笑みながらフォークを運ぶと、正も目尻に優しい皺を寄せて頷いた。

「ああ、本当に旨いな。こうして誰にも気兼ねなく、自分たちの稼いだおから美しいものをわえる。これ以の贅沢はないよ」

「ええ……本当に。毎万円という途方もない圧から解放されただけで、世界がこんなにも鮮やかで美しく見えるなんてわなかったわ」

この余りの歳は、みつ子と正にとって、まさにの黄期と呼べるものだった。

定して入る夫婦万円の。かつてはそこから万円を吸い取られ、元に残る万円で飢えを凌ぐような活をいられていたが、今はその万円がまるまるの暮らしのために使えるのだ。

費に万円、費や用品に万円、居の維持費に万円使ったとしても、毎万円以元に残り、自然と貯蓄に回っていく。退職の残り百万円と個貯蓄百万円の資産は、減るどころか、この百万円くまで順調に増えていた。

はこので、かつて諦めていたをすべて叶えていった。

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には京都の静寂な古刹で満の桜をで、には自然をレンタカーで巡り、にはの名湯で葉を眺め、には沖縄の穏やかな辺で避寒活を送った。

憧れていた陶芸教に通い始め、今では自宅の器のほとんどを自作のわいい器で揃えるまでになった。域のシニアゴルフクラブにも復帰し、許せる同世代の友たちと毎週のように爽やかな汗を流している。

みつ子もまた、カルチャーセンターの絵画教とフラワーアレンジメントに通い、かつてのやつれ果てた姿からは像もつかないほど、内面から輝くような気品と若々しさを取り戻していた。

「ねえ正さん、来からのスイス旅の準備、そろそろ始めましょうか」

「そうだな。アルプスの並みを眺めながら、ゆっくり列旅をしよう。パスポートの更も無事に終わったしな」

は幸せそうに笑いった。そこには、かつて息を潜めて寒さに震えていた老夫婦の面はどこにもなかった。

方で――因果応報の酷な輪に巻き込まれた息子夫婦のは、文字通りの破滅を辿っていた。

親からの莫な経済支援という固な台を失った瞬の丈にわない豪邸という砂の楼閣は、瞬にして崩壊したのである。

万円の宅ローンを、取り万円の志の料で支払えるはずがなかった。

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